語源

 「うちの主人、几帳面なのは良いけれど、仕事から帰ってから寝るまでの間にすることがきっちり決まっていて、少しでも順序を変えたら機嫌が悪うなるし、かないまへんわ」
 「几帳面」の几帳というのは、平安時代から御所等で間仕切りや目隠しに使用されていました。今まで言う衝立やカーテンのようなものです。縦柱と横柱を組み合わせて、絹布(けんぷ)を何枚か吊り下げるという形ですが、柱を組み合わせるときに段(きだ)という切れ目を両面につけて嵌め込む。この細工は、面が正確に削られていないと出来ないところから、几帳の面を取る→「几帳面」という言葉が生まれて、今も同じ意味で使われています。このように、語源の舞台が京都にはたくさんあり、「埒(らち)があく」もそのひとつです。
 これは上賀茂神社で行われる葵祭の神事で「競馬(くらべうま)」の時に、馬場と見物客との間に柵を設けます。それを「埒(らち)」と言い、神事がすべて終れば埒を取り除くところから、物事の決着が付くことを「埒があく」と言うようになったと言われています。
 他にも「打ち合わせ」というのも雅楽からきている言葉です。楽器ごとに譜面が違う雅楽は指揮者がいないので、音合わせは打楽器の中の鞨鼓(かっこ)が演奏をリードします。すなわち打ち物に合わす→「打ち合わせ」となったのです。
 雅楽から生まれた言葉は他にも「音頭取り」「呂律が固まらない」「二の句が継げない」「野暮なこと」などなど枚挙にいとまがありません。京都は歴史とともに語源の坩堝(るつぼ)です。語源を訪ねて歩くのも楽しいですよ。

※このコラムは「月刊 茶の間9月号(よろしおすえ京ことば)」に掲載されたものです。


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